サーバの電源まわりが悲劇を生む

 

オンサイトのインフラ現場を伝えるシリーズ、3回目の今回は、サーバーの運用で苦労したお話です。

もう10年近く前の話になります。

ITサポート業務を提供していた事務所で、それまでWindows XPで運用していたサーバを入れ替えたい、というお話を頂きました。

小さな事務所ですから、サーバといっても、冷房の効いたサーバルームにブレードサーバが整然とならぶとか、そんな感じではありません。

老朽化して使わなくなったノートPCに、フリーのソフトを入れて、事務所に置いてメールサーバとして使っていたのです。

 

さすがにそろそろ新しいPCに乗り換えた方がよさそうだということで、入れ替えることにしました。

デスクトップPC(Dell Optiplexあたりだったと記憶しています)に、フリーのCentOSをインストール。

メール送信サーバにはPostfix、受信サーバにDovecotを使いました。

メールサーバの構築は初めてでしたが、分厚い参考書片手に奮闘し、なんとか稼働にこぎつけました。

 

他にも、事務所のウェブサイトを外部公開したり、業務効率を上げるために簡単なウェブアプリケーションを作ったりと、そのサーバでは色々と楽しませてもらいました。

 

「サーバーは掃除機じゃありません」

そうしてメールサーバを稼働させて、しばらく経った頃です。

ある朝、自席で仕事を始めようとしていると、1通のメールが。

 

「メールが送れない、なんとかしてくれ」

 

サーバ落ちたかな?

そう思ってメールを送受信してみますが、確かに送れない。

サーバにpingを打っても、返ってこない。

はいはい、これは多分落ちてますね。

 

停電でも起きたかしらと、事務所に電話して聞いてみても、特に変わったことはないとのことです。

「サーバに何かありましたか?」と聞いてみましたが、「サーバ?何それ」とのお返事。

仕方なく、車で1時間ほどの場所にある事務所に、直接伺うことにしました。

 

事務所に着いてみると、確かに別段変わった様子はなさそうです。

さて、サーバはどうなってるかな・・・?

 

その事務所は、元々は住宅だったところを、一部事務所として転用していました。

窓以外の壁は大きな書類棚が占有しており、事務スタッフさんの机がいくつか押し込まれていました。あまり場所に余裕はありません。

そのため、サーバ用のPCも、普通のスタッフ用のクライアントPCと同じように、机の上に並べて置いていました。

 

とりあえずログを見てみよう。サーバの前の椅子に座り、電源ボタンをポチっと・・・あれ。

 

電源が入りません。

 

・・・え、故障?電源トラブルは、結構面倒くさいって聞くぞ・・・。

慌ててケーブルの接続を確認しようと、足元を見てみました。

すると。

 

テーブルタップから、サーバのコンセントが抜けてる・・・。

 

サーバのコンセントの代わりに刺さっていたのは、見慣れない携帯電話の充電器。

テーブルタップには、他に空いている口がありませんでしたから、使ってなさそうなコンセントだと勝手に判断して抜いたのでしょう。

よほど急いでいたのでしょうかね。

 

そこまで考えが至りましたが、まだ信じられません。

だって、サーバですよ・・・?勝手に引っこ抜いたら、皆が迷惑するんですよ・・・?

 

テーブルタップから充電器をとりはずし、サーバのコンセントを挿したら、当然サーバは正常に起動しました。メールの送受信も問題なし。

サーバの電源を投入しに、往復2時間かけてやってきたようなものでした・・・。

 

後で事務スタッフさんに、誰がコンセントを抜いたのか聞いてみました。

「ああ、さっき久しぶりにAさんがきて、なんかケーブル引っこ抜いてたよ」

 

掃除のおばさんがコンセントを引っこ抜いて、サーバが落ちた、なんて体験談はよく聞きますが、よもや自分が同じ目に遭うとは。

 

Aさんは掃除のおばさんでも、事務スタッフでもありませんでしたが、外回り担当でした。当然、そこにメールサーバーがあることも知らなかったのでしょう。

 

また私も、事務所のボスに対しては、フロアにメールサーバを設置したと説明をしていましたが、それ以上の注意喚起はしていませんでした。

さらにサーバの外見も、普通のデスクトップPCだったので、言われなければサーバだとは分かりようがありません。

 

ITに慣れていない人の中には(ごく稀だとは思いますが)、PCの電源をいきなり抜いてはいけない、ということをご存じない方もいます。信じられないことですが、彼らはまるでドライヤーのコンセントを抜くかのように、PCのコンセントを引っこ抜くのです。

 

まあ考えてみれば、そもそも他のPCと、同じフロアの同じ場所にサーバを置いてはいけなかったのです。当たり前のことですが。

メールサーバを苦労して構築して浮かれていた私は、そこまで気が回りませんでした。

少なくとも、「雑に扱ってはいけないもの」だと、周囲に分かるような工夫をすべきだったのです。

 

それに、入れ替え前のメールサーバには、老朽化したとはいえ、内蔵バッテリ搭載のノートPCを使っていました。

これまでは、仮に誰かがノートPCのコンセントを引っこ抜いたとしても、すぐにサーバがダウンすることは無かったことでしょう。

そのことも、今回の件に影響していたのかもしれません。

 

結局その日は、大きな文字で次のように印刷したテプラを、サーバに貼って帰りました。

「サーバです!掃除機じゃありません!勝手に電源切らないで!!」

 

触って欲しくないモノは避けておく

後日、簡単な業務用のウェブアプリケーションを構築し、アプリケーションサーバとデータベースサーバを、別のPCに構築ました。

それを機に、サーバの置き場所を移すことにしました。

 

とはいっても、サーバ用に別の部屋を用意したわけではありません。

書類棚近くのスペースを整理して、そこにサーバを移動しました。書類棚には、事務スタッフさんくらいしか近づきません。

また、近くに無線LANアクセスポイントなども設置しておきました。

これでわざわざ近づく人もいないでしょう。

少なくとも「なんか良く分からないものが置いてあるし、下手にいじったら、後で怒られそう」というような雰囲気は出せたと思います。

それからは、勝手にコンセントを抜かれれることもありませんでした。

事務所が小さいから、スペースがないから、なんてことは、みな言い訳で、工夫はしてみるものだなあ、とちょっと反省しましたね。

 

それにしても、と今でも思います。サーバのコンセントを引っこ抜くのは酷いよなあ。

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